<東京2020 彩る人々>(6)聖火リレー 思い出の品を展示 熊谷の元ランナー・雨宮悟さんら

昨年9月、子どもたちと握手する雨宮さん(右)と赤沼さん。「五輪の感動を次世代へつなげたい」と話す=いずれも熊谷市で  「沿道にはたくさんの人たちがいて、とにかくすごい熱気だった」  五十六年前の一九六四年十月六日、東京五輪の開幕を四日後に控え、熊谷市内で行われた聖火リレー。元ランナーたちは、異口同音に当時の興奮を振り返る。  「あの時の感動を今の人たちにも伝えたい」と、トーチを持って先頭を走った雨宮悟(あめみやさとる)さん(75)を会長に二〇一八年九月、近隣の別区間の元ランナーも含めた二十人で「聖火よ ふたたび!」実行委員会を結成。同市のスポーツ・文化村「くまぴあ」を拠点に、当時のトーチや写真、聖火ランナーの委嘱状など思い出の品を持ち寄り展示している。  「屋根の上にも、道路の両側にも人、人、人…。電柱に登っている人もいたな。みんなが声援を送ってくれていました」。メンバーの赤沼昇さん(70)と依田英世(よだひでよ)さん(70)は当時、中学三年生。白黒写真を見つめながら、雨宮さんに随走した時の思い出を語った。 1964年東京五輪の思い出の品々。手前は聖火ランナーの委嘱状、奥はトーチ  一九六四年の聖火リレーは、一区間二十三人。正走者一人に副走者二人、その後ろを伴走者二十人が整列して追い掛けた。五輪後も参加者の交流は続き、会の結成につながった。  昨年九月には小学校の運動会にも参加。トーチを持って走り、雨宮さんらから子どもたちへと聖火を渡す「模擬聖火リレー」を実施した。今年は中学校でも同種のイベントを計画している。記念の品々の展示も各地を巡る予定だ。  「今でも、心の中で聖火を持って走り続けている」と雨宮さん。当時は同市の八木橋百貨店に勤め始めたばかりの社会人一年生。聖火リレーは「引っ込み思案だった人生を変えてくれた出来事」だった。「あの時走らせてもらった感謝を胸に、子どもたちに平和の祭典の意義や感動を伝え、つないでいきたい」 (渡部穣) ◆64年聖火台を父らが制作・鈴木昭重さん 失敗した最初の聖火台を前に「親父や兄貴たちと一緒に走りたい」と話す鈴木昭重さん。県内の五輪聖火リレーはここから始まる=川口市の青木町公園で  一九六四年十月十日、秋晴れの国立競技場で行われた東京五輪の開会式。鋳物の街・川口市が生んだ聖火台に炎がともる瞬間を、客席の鈴木昭重さん(84)は涙を浮かべて見つめていた。  誇らしさとともに、少しの後悔もあった。「兄貴が来た方が良かったかな」。十三歳上の兄・文吾さんは仕事で長野にいた。父・万之助さんと手掛けた大仕事に、世界の注目が集まる光景を見せてあげたかった。  鋳物師の親子の物語は今や有名だ。聖火台は高さ二・一メートル、重さ四トンという破格の大きさにもかかわらず、納期はわずか三カ月。名工と呼ばれた万之助さんが依頼を引き受けたが、鋳型のボルトが飛び、溶かした鉄がこぼれ出てしまった。  「親父(おやじ)はその晩から酒も飲まず、寝込んじゃった」と昭重さん。数日後、六十八歳で亡くなった。その死を伝えられないまま文吾さんは作業に打ち込み、兄弟や仲間の職人たちの助けで間に合わせた。「二度も失敗したら川口の恥という覚悟があったに違いない」  文吾さんも二〇〇八年、八十六歳でこの世を去った。それまで毎年、聖火台を磨きに国立競技場を訪れた。万之助さんの「墓参り」だった。「あの時、親父が死んだと知らされていたら仕事にならなかった」。後にこう語っていたという。 61年ぶりに川口に戻り、炎がともされた聖火台。左端は室伏広治さん=昨年10月、JR川口駅前で  聖火台は昨年十月、六十一年ぶりに川口に戻った。新国立競技場の一角に飾られるまでの短い「帰郷」だ。記念の点火式で、昭重さんは「ここに親父と兄弟が入っている」と手を合わせた。「完成当時と変わらない姿で、すごいものを作ったんだなと感激してね」  一方の失敗した「一号機」も市内の青木町公園に修復展示され、静かに「その時」を待つ。東京での二度目の五輪。七月、ここから県内の聖火リレーが出発する。ランナーを務める昭重さんは、特別な思いを込めてトーチをつなぐつもりだ。「親父や兄貴たちと一緒に走りたい」 (近藤統義) =おわり 関連キーワード 埼玉 logo-en-hatena logo-en-twitter logo-en-facebook logo-en-line 関連記事ピックアップ小池都知事が本紙に語った危機感「駐車場にコンセントさえない」、コロナ「敵が入れ替わった」社会(2021年12月29日)これは「しつけ」なのか、親のメンツなのか〈お父ちゃんやってます!加瀬健太郎〉小池知事、まん延防止措置「考えていない」 東京都では初の「オミクロン株」のクラスター 社会(2022年1月5日)技能五輪Road to Tokyo レストランサービスの“若き匠”金メダルへの猛特訓に密着AD(TOKYO MX on 東京新聞)精子取引トラブルで訴訟「京大卒独身日本人と言ったのに…経歴全部ウソ」精子提供者を女性が提訴 全国初か社会(2021年12月27日)「感染者、あっという間に倍」尾身会長が危機感 高齢者の3回目接種が最優先課題社会(2022年1月7日)【脳は若返る】70代で脳年齢30才以下になる人続出中の「スマホ脳トレ」が話題AD(株式会社Art of Memory)「記憶力がぐんぐん上がる魔法」と話題の”脳トレ”が凄い!AD(株式会社Art of Memory)Recommended by
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日期:2020/01/07点击:11