新春・川勝知事に聞く リニアは考え直せ

「21世紀は環境と生命の世紀」と話す川勝知事  川勝平太知事と本紙の鈴木孝昌・東海本社編集局長は、二〇二〇年新春に際し、リニア中央新幹線をテーマに会談した。話題はリニアの必要性、日本の誇る新幹線技術やJR東海との協議のあり方、住民不安など多岐にわたった。 ◆環境への配慮が最重要  鈴木 これだけ環境問題や水問題がクローズアップされると、そもそもリニアが必要かという声も出てくる。速さや大きさより、環境や安全性を重視するのが世界の潮流。リニアの意義や波及効果は何か。  川勝 二十世紀は「戦争の世紀」、あるいは「革命の世紀」と言われている。それに対応させると二十一世紀は「環境と生命の世紀」と言えるのではないか。その中で(首都圏、中京圏、関西圏による)六千五百万人の「一つの経済圏」をつくるのは本当に必要なことか。  富士山の下にリニアが通るとなったら誰も許さないと思う。南アルプスならいいのか。芸術の源泉や自然に対する畏敬、信仰の対象。そういう念を持たなければいけない。環境と生命の世紀という観点から言えばはっきりしている。リニアは考え直せと。  鈴木 リニア建設の「国家プロジェクトか、住民の暮らしか」という構図は原発と似ている。国や事業主は「絶対安全、大丈夫だ」と言いながら、事故が起きたら「想定外でした」と言う。地域の人たちは故郷を追われる。同様のことが起こり得る。  川勝 どんなに経済効率が高くなっても命や生活が失われ、多くの生き物が命の危機にひんすることは許されない。  ただ、この二項対立を乗り越え、どうやって両立させるかが私の立場だ。  私がJR東海に反発していると誤解している人もいる。一九九九年にリニア(の実験線)に乗せていただいた。揺れてもコップの水はこぼれず、シートベルトもいらない。七〇年代から実験を重ねてきた日本の技術の粋(すい)だ。  戦艦大和の技術は新幹線に生きている。ドーバー海峡にトンネルを掘るときも日本が頼まれた。東日本大震災でも(建設途中の)スカイツリーは無傷だった。地震や風圧にも耐えられる技術は、この国の風土の中で生まれ、世界で群を抜いている。日本のシンボル富士山と桜吹雪の中を新幹線が疾駆する。今、新幹線を抜きにして日本経済は成り立たない。 ◆常識なら立ち止まる リニア中央新幹線をテーマに語り合う川勝平太知事(左)と中日新聞(東京新聞)東海本社の鈴木孝昌編集局長=県庁で  鈴木 リニアは当初、南アルプスを迂回(うかい)するルートを含め三つほどの案があった。距離や所要時間、工費等を勘案して貫通するルートに決まったが、生態系や水資源への影響は少ないと、誰がどう判断したのか。静岡県も当時は貫通ルートに反対しなかった。  川勝 南アルプスには水の問題がある。トンネルを掘る技術は進歩したが、水は排水すればいいと、そこだけで決めた。その水が県民に不可欠な命の水であるかを考えた節が全くない。  JR東海の宇野護副社長が(県庁での協議後に大井川)中下流域の地下水への影響は「百キロぐらい離れている場所なので出ないものだと考えている」と言った。あの発言でいかに水について考えていないか分かった。  流域十市町の年間総生産額は三・七兆円。公共工事の補償期限である三十年間の合計では百十一兆円を上回る。それを無視できるのか。普通の常識だったら立ち止まる。このまま行くと暴風雨になり山頂で遭難する。  鈴木 国がリニアの着工を認可して五年。JR東海がどこかで協議を打ち切り、工事を強行する可能性もあるのではないか。  川勝 全国新幹線鉄道整備法を読むと、強行できるとは書いていない。大井川の流量を戻せても水質が変われば、生きていけなくなる生物も出る。南アルプスの生態系が失われれば、エコパークの指定が取り消される。国連教育科学文化機関(ユネスコ)に対する約束違反であり、人類の財産に対する犯罪行為だ。水が枯れたらJR東海の社長は引責辞任し、全社員がやめて会社はJR東日本に譲る。それぐらいの覚悟があるかだ。 ◆流域市町の不安解消を  鈴木 JR東海も地元に丁寧に説明する姿勢を見せ始めている。中下流域での水枯れなどが起きた場合、原因を調べる立証責任がJR側にあることを認め、工事に原因があれば補償するという協定書を結ぶことができれば、ある程度は納得できるか。  川勝 水が失われれば水道が止まり、農業、工業用水がなくなる。水力発電もできない。とにもかくにも十市町の住民の不安が払拭(ふっしょく)できるかということ。私は県民の負託を受けてやっており情報を共有する必要がある。なぜこの情報でこう判断したのかを分かるようにすべきだと思っている。  鈴木 愛知、三重や関西では「静岡が邪魔している」という見方をする人もいる。命の水を守るためということが、いまひとつ伝わっていない。知事だけがごねていると誤解されないために、もう少し国民全体に伝わるように普遍化していくべきだ。その意味で、流域の市町を表に出した方がいいと思う。  川勝 そういう形での議論は検討に値する。今度、十市町の方たちと会い声を聞いてみたい。 関連キーワード 静岡 logo-en-hatena logo-en-twitter logo-en-facebook logo-en-line
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日期:2020/01/01点击:13